おとなの教養講座2026「侍従長が見た昭和天皇と戦争-百武三郎日記を読み解くー」を開催しました

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志學館大学社会連携センターでは、2026年9月12日(土)、本学40周年記念館を会場に「おとなの教養講座2026」を開催いたしました。

地域の「知の拠点」としての役割を担い、今年で4年目を迎えた本講座ですが、今回は本学人間関係学部の茶谷誠一教授が研究代表者を務める科学研究費助成事業(科研費)「百武三郎文書の研究と分析」の研究成果報告シンポジウムとして実施されました。

当日は、地域住民の皆様をはじめ、歴史愛好家や学生など200名を超える方々にご来場いただき、熱気あふれる充実したシンポジウムとなりました。

■ 開催概要

  • 日時:2026年9月12日(土)13:00〜17:00(12:30開場)
  • 会場:志學館大学 40周年記念館(6101講義室)
  • テーマ:侍従長が見た昭和天皇と戦争―百武三郎日記を読み解く―
  • 司会進行:河西 秀哉 教授(名古屋大学大学院)

■ プログラムと当日の様子

【学長挨拶・ミニ講話】

冒頭、飯干紀代子学長より「大学が地域の知の拠点として果たすべき役割」と、複数の大学による協働の科研費プロジェクトの成果を地域に還元する本講座の趣旨が述べられました。

続いて、研究代表者の茶谷誠一教授によるミニ講話「戦前における侍従長の役割と百武三郎日記の特徴」が行われました。

茶谷教授は、宮内省官制における侍従長の職務規定の曖昧さと裁量の広さを指摘。元老・西園寺公望が重視した「大物人物主義・三位一体の側近体制(内大臣・宮内大臣・侍従長)」から、二・二六事件後に木戸幸一らが志向した人柄重視主義(政治に関わらない「無色無臭の人」)へと選考基準が変化した経緯を解説しました。その結果として就任した百武三郎の日記(1936〜1944年)は、側近史料が手薄な激動期の空白を埋め、昭和天皇の心情・感情の機微や、侍従長が接していた豊富な対外情報を克明に記録した超一級の史料であることを示しました。

【第1部:軍事関係】

基調報告①:「百武三郎日記に記録された軍事情報の量と質」

山田 朗 教授(明治大学)

日記中に記録された「御軫念」「宸襟を悩ます」といった天皇の憂慮表現(計97回)を網羅的に分析。ガダルカナル島を含む南東方面攻防戦において憂慮がピークに達している実態を提示しました。また、1942年の軍事情報約170件の精査から、公刊戦史や大本営発表には現れない未発表情報や、蓮沼蕃侍従武官長・統帥部関係者経由の生の情報が豊富に含まれており、昭和天皇の情報環境を復元する上で欠かせない史料であると論じました。

基調報告②:「海軍軍人としての百武三郎」

手嶋 泰伸 准教授(龍谷大学)

予備役海軍大将から侍従長となった百武三郎のアイデンティティに注目。日中戦争初期から太平洋戦争期にかけて、陸軍への強い不信感や「海軍こそが陸軍の暴走を防ぐブレーキ役である」という、当時の海軍に広く共有されていた意識を百武三郎自身も色濃く保持していたことを日記の記述から実証しました。日記から昭和天皇の言動を読み解く際は、百武三郎の海軍軍人としてのバイアスを差し引いて評価する必要性があると指摘しました。

討論:古川 隆久 教授(日本大学)

翻刻・公刊された『百武三郎日記』が今後の近現代史研究に与える可能性を評価。昭和天皇が置かれていた情報環境の検証や、1944年の陸海軍指揮統一問題における百武三郎の動向など、同氏の資質・立場を踏まえた史料批判の論点を提示しました。

【第2部:政治外交、宮中関係】

基調報告③:「天皇制と軍隊の関係から近代を振り返る」

加藤 陽子 名誉教授(東京大学)

満洲事変から二・二六事件を経て、昭和天皇と軍部(特に陸軍)との間に生じた深い亀裂と不信感を検証。日中戦争初期における参謀本部(石原莞爾ら)の和平工作と宮中・天皇の動向を多角的に分析しました。さらに、天皇が平泉澄らの情緒的・皇国史観的な歴史観を退け、歴史の失敗に学ぼうとする合理的・批判的な歴史観を持っていたことを、御進講や御下問の記録から浮き彫りにしました。

基調報告④:「日米開戦の決定過程と日米交渉」

森山 優 教授(静岡県立大学)

明治憲法体制下の多元的な権力構造が生んだ「決められない組織」と、国策文書における「両論併記」の弊害を論じました。希望的観測に基づいた「ヂリ貧論」が台頭する一方で、不都合な未来(敗戦・損切り)を直視する「臥薪嘗胆」の選択肢が排除されていった意思決定の病理を解明。昭和天皇が1941年10月中旬以降、開戦論へと傾斜していったプロセスを『百武三郎日記』等の新史料から丹念に跡づけました。

討論・コメント:茶谷 誠一 教授(志學館大学)

陸軍の「手ぶら撤兵不可」に見る「死者への負債」(ジョン・ダワー氏の概念)の問題、開戦直前の重臣会議がブレーキとして機能しなかった背景、さらに現代社会において歴史修正主義や感情的な言説と、どう向き合うべきかという点について重層的な問題提起を行いました。

【全体討論】

司会の河西教授によるコーディネートのもと、登壇者全員による全体討論が行われました。「陸海軍のセクショナリズムが国家的意思決定に及ぼした影響」「昭和天皇の戦争責任における作為と不作為」「多角的な史料照合による客観的な歴史検証の意義」について活発な議論が交わされました。

会場からも熱心な視線が注がれ、SNS等で断片的な情報が溢れる現代だからこそ、一次史料を緻密に読み解いて歴史の実像に迫ることの重要性が改めて確認されました。

■ コラボレーション企画

会場ロビーでは、本学学生起業家の久木田紫絵留さん(代表)が運営する「ル シエル フュゼ」と「shigakukan cafe Fu」が特別出店いたしました。こだわりのドリンクや洋菓子、オリジナルアロマ商品、軽食等が並び、休憩時間には多くの受講者で賑わいました。 ご後援をいただきました関係諸機関・報道関係の皆様、ならびにご来場いただきました受講者の皆様に心より御礼申し上げます。志學館大学では、今後も地域社会に貢献する質の高い学びの場を発信してまいります。